異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第6章 令嬢は静かに分析する 前編
ヴァレンシュタイン公爵家の執務室。
重厚な机の向こうで、父が書類から顔を上げた。
「お父様。私の復学は三日後にしてくださいませ」
私がそう告げると、公爵――父は露骨に眉をひそめた。
「もう少し休んだ方が良いんじゃないか?」
その声音には、当主ではなく父としての心配が滲んでいる。だが私は、静かに頭を横に振った。
「その期間が適正です。調査するに当たっても」
「……調査?」
怪訝そうな視線が向けられる。だが、私は多くを語らない。
感情で語れば、ただの疑念になる。だが理で進めば、これは正当な確認だ。
私は背筋を伸ばし、冷静に続けた。
「その前に、現在の状況を正確に把握したく存じます」
転生者である私には分かっている。
感情で動けば負ける。まずは“盤面確認”。
父はしばらく私を見つめ、やがて静かに鐘を鳴らした。
呼ばれたのは、長年公爵家に仕える執事セバスと、学院にも出入りするメイド長マルタ。
二人が入室し、恭しく一礼する。
「リリアーナ・ベルフォード嬢の最近の動向を教えてちょうだい」
表情は穏やかに。だが視線は逃さない。
報告は淡々と続いた。
まず、階段転落は放課後、人目の少ない時間帯。直前にアルベルトが近くにいた。そして転落直後、偶然彼が第一発見者。彼女は“エミリア様に睨まれた”と発言。
私は心の中で整理する。
偶然が多すぎる
社会人時代、社内政治を嫌というほど見てきた経験が告げる。――偶然が連続する時、それは設計図だ。
悲鳴のタイミング。
第一発見者の位置。
証拠の残らない訴え。
――美しすぎる構図。
私はゆっくり息を吐いた。