異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第5章 悪役令嬢上等!後編
それ、ゲーム冒頭で聖女リリアーナがやるイベントじゃない!?待って、時系列どこ!?
母がそっと私の手を握る。
「エミリア、無理をしてはなりませんよ。最近、あの平民の少女のことで心を痛めていたのでしょう?」
きた。
聖女リリアーナ。
物語開始直前だ。
つまり――断罪ルート、開幕目前。
私は一瞬で理解する。
今ならまだ、取り返せる。
ゲームのエミリアはプライドが高く、リリアーナに冷たく接することで孤立していく。
けれど私は違う。
中身、社会人だぞ?
理不尽な社内政治もくぐってきたんだぞ?
私は父を見上げる。
「お父様。ひとつ、お願いがございます」
部屋の空気が張り詰める。
「何だ」
「わたくし……学院での人間関係について、改めて考え直したく存じます」
公爵の眉がわずかに動く。
母は驚いたように目を見開く。
「これまでの私は、少々視野が狭かったように思いますの。公爵家の名に恥じぬ振る舞いとは何か……もう一度、学び直したいのです」
嘘ではない。
私は生き延びたい。
そして、できれば――悪役エンドを回避したい。
公爵はしばらく沈黙し、やがて静かに頷いた。
「……良い心がけだ。ヴァレンシュタイン家は力だけで立つ家ではない。誇りと理性で立つ家だ」
胸が少し熱くなる。
ゲームでは冷徹な父として描かれていたけれど、目の前の彼は娘を案じている。
母が微笑む。
「エミリアは、私たちの誇りです。どう進むかは、あなたが決めなさい」
――選択権、くれるんだ。
ゲームじゃなかった設定だ。
私は深く息を吸う。
どうしていくか――答えは一つ。
まず、リリアーナを敵にしない。
そしてアルベルト攻略対象に執着しない。
公爵家の信頼を強化する。
自分の派閥を静かに築く。
そして何より。
悪役という役割を、書き換える。
私は静かに微笑んだ。
「わたくしは、ヴァレンシュタイン公爵家の娘として――誰にも侮られぬ道を選びますわ」
断罪イベント?
上等。
シナリオは知っている。
ならば、対策は打てる。
悪役令嬢エミリア・ヴァレンシュタイン。
その運命は、今日から――私が書き換える。