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異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった

第3章 始まりは悪女から後編


リリアーナさんの肩がわずかに揺れる。
彼女は“証拠”を持っていない。
彼女が持っているのは、物語だけ。私は感情をぶつけない。ただ、事実を置く。
それが私の正当な戦い方。
アルベルト様の表情が、わずかに曇る。
彼は迷っている。正義とは何か。弱者を守るとは何か。
私は知っている。彼は優しい。だからこそ、涙に弱い。
だが優しさは、時に思考を鈍らせる。
私は彼を責めない。
彼もまた、物語に巻き込まれているだけ。

 
「リリアーナ様」

 
初めて、私は彼女の名を呼ぶ。

 
「私の視線が怖いのであれば、謝罪いたします」

 
場がどよめく。
悪女が謝る?

 
「ですが、私は貴女を貶める意図は一切ございません」

 
視線を逸らさない。
彼女の瞳の奥を、静かに見つめる。
一瞬。ほんの一瞬。
彼女の中の“演者”が揺れた。彼女は計算している。
ここで私を責め続ければ、あまりに露骨。
だが引けば、疑念が残る。
その逡巡を、私は見逃さない。
私は怒っていない。悔しくはある。理不尽だとも思う。
だが、私は泣かない。
泣けば、彼女と同じ土俵に立つことになる。
私は公爵令嬢。誇りは、感情よりも重い。
 
――私は何もしていない。

だが、何もしなかったことが誤解を生んだのなら。
これからは、違う。
沈黙は美徳ではない。無関心は高潔ではない。
私は理解した。
彼女は“感情”で味方を集める。
ならば私は、“信頼”で味方を作る。
正しく在ること。
誠実であること。
理を曲げないこと。
時間はかかるだろう。けれど、私は知っている。
演技は、いつか綻ぶ。
そのとき私は、ただ静かに立っていればいい。
アルベルト様の視線が、初めて私を真っ直ぐに捉える。
そこには、断罪だけではない。疑問が生まれている。
それで十分。
物語は、まだ終わっていない。悪役にされたのなら。
私は、最も気高い悪役になりましょう。
涙ではなく、理性で戦う。
それが――私、エミリア・ヴァレンタインの選ぶ道。
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