異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第14章 懲りずに陥れたいの? 後編
「図書室の棚って、固定されているのよね?」
沈黙――ほんの一瞬。
だが確実に、“物語”が止まった。
私は遠くの席からそれを見ていた。
紅茶のカップを持ったまま。
何も言わず、何も動かず、ただ観察する。
演出型の弱点は単純だ。
舞台を作り続けなければならない。
一度成功した演出は、次も求められる。
そして回数を重ねるほど、“期待”が生まれる。
期待は、検証を生む。
リリアーナは慌てて言葉を足した。
「ええ……でも……その……」
目が泳ぐ。ほんのわずか。だが私は見逃さない。
「ぐ、偶然……緩んでいたのかも……」
私は吹き出しそうになった。
苦しい……無理があるぞリリアーナ嬢
令嬢たちは顔を見合わせる。
否定はしない。だが、以前のような即座の同調もない。
それだけで十分だった。
疑念は、否定より強い。
私はある意味彼女を賞賛したくなった。
彼女の物語は、よくできていた。
美しいくシンプルで、わかりやすい。
“冷酷な公爵令嬢が、可憐な平民令嬢をいじめる”
誰でも理解できる構図、誰でも感情移入できる物語。
だからこそ、広がった。
――だが。
美しい物語ほど、現実の細部に弱い。
事件には“物理”がある。
階段には角度がある。
棚には固定具がある。
花瓶には重量がある。
そして人間には――目撃者がいる。
私はカップを置く。
周囲の令嬢が話題を変える。
「そういえば、今度の舞踏会……」
空気が流れる。
リリアーナの話は、そこで終わった。
途中で、自然に。
それが一番彼女にとって残酷だ。