異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第10章 令嬢は冷静です。さぁどうする? 中編
次は――観客自身に、考えさせる番だ。
あの日の教室では、何も決着はつかなかった。
リリアーナは涙を浮かべ、数人の令嬢が彼女を囲み、アルベルトは沈黙し、私は席に座って書物を開いた。
表面上は、いつも通り。
けれど――
アルベルトは一度だけ、あの階段を見上げた。
ほんの一瞬。
誰にも気づかれないほどの、わずかな動き。だが私は見ていた。
疑問は、生まれた。それで十分。
勝つ必要もなければ断罪する必要もない。疑わせればいい。
涙は瞬間的。論理は蓄積する。
その夜。
寄宿舎の私室。
机上のランプが淡く揺れる中、私は日記を開いた。
感情を吐き出すためではない。整理のため。私は淡々と箇条書きに書き記す。
・リリアーナは演出型
・アルベルトは正義型
・周囲は感情追従型
ペン先が止まる。
演出型は、観客がいなければ力を失う。
正義型は、矛盾を嫌う。感情追従型は、多数派に流れる。
ならば…
私は次の項目を書き加える。
対策:
1.公の場で透明性を保つ
2.物理証拠を集める
3.私的接触は避ける
4.常に第三者を置く
私が彼女を追い詰めることはない。だが、密室も作らない。
二人きりの構図を与えなければ、“睨まれた”という物語は生まれない。
私は最後に、ゆっくりと書いた。
“悪役とは、感情で裁かれる者。ならば私は、感情を超える”
ペンを置く。青い瞳が、静かに灯る。
私は泣かない。
だって泣けば、舞台に立たされから。私は舞台を作る側に回る。
数日後。
学院の廊下。
「エミリア様、少しよろしいでしょうか」
声をかけてきたのは、上級生の令嬢だった。その後ろには、さりげなく他の生徒たちもいる。
私は一人ではない。
必ず誰かが視界に入る位置にいる。
「ええ、どうなさいました?」
柔らかく、だが曖昧にしない声音。
「階段の件……本当に点検が入ったと聞きましたわ」
「はい。結果も掲示されております」