異世界転生悪役令嬢だと思ったら、本当の悪女はヒロインだった
第9章 令嬢は冷静です。さぁどうする?
学院復帰の日。
馬車を降りた瞬間、空気の温度が違うとわかった。
視線。囁き。好奇。
――悪役令嬢が戻ってきた。
私はゆっくりと背筋を伸ばす。
感情で動けば負ける。今日は“逆算”の初手だ。
教室の扉を開けると、ざわめきが一段階大きくなった。
その中心にいるのは――リリアーナ。
包帯はもう取れているが、どこか儚げな微笑みを浮かべている。彼女の隣には、当然のようにアルベルト。
完璧な構図。
けれど私は、その舞台の中央へと歩み出た。
逃げない、避けない。
真正面から、しかし静かに。
「リリアーナ様」
教室が水を打ったように静まる。
私は淑女の礼を取り、視線を合わせた。
「先日の件、心よりお見舞い申し上げます」
ざわり、と空気が揺れる。悪役が謝罪?
誰かの息を呑む音が聞こえた。
リリアーナの瞳が、一瞬だけ揺れる。
ほんの刹那。だが私は見逃さない。
「……ありがとうございます、エミリア様」
か細い声。
よく通る、震えを含んだ声音。
――上手い。本当に、上手い。
私は微笑みを崩さないまま、続けた。
「念のため、学院側に安全点検を依頼いたしましたわ」
沈黙…そして、空気が変わる。
アルベルトが顔を上げた。
「安全点検だと?」
その声音には、わずかな警戒。私はゆっくりと彼へ視線を向ける。
「ええ。階段の構造に問題があるなら、他の生徒も危険でしょう?」