後宮は恋愛する暇はありません!なのに皇帝がやたら近い件!
第4章 琳 中編
「今年の新入りはノロマやグズばっかりだ!今日の洗濯が終わらなきゃ、全員臀が赤く染まるまで叩き倒してやるからね!」
ああ。
これ、ロケじゃない。
ブラック企業よりブラックな匂いがする。
列が動き出す。
石畳を歩きながら、私は必死に思考を整理した。
飛び降りた。
死んだ、はず。
目が覚めたら、古代王朝っぽい世界。
水仕事の下っ端。
どうやら“新入り”。
そして、殴られるのがデフォルト。
つまり――
「……転生?」
口の中で小さく呟く。
水面に映った少女の顔を思い出す。
この子の名前は?
身分は?
ここはどこ?
だが一つだけ、はっきりしていることがある。
私はもう、水瀬美咲ではない。
ここで生きるしかない。
洗濯場に着くと、大きな石の桶が並び、山のような衣が積まれていた。
重労働確定。
前世の私なら、絶望していたかもしれない。
でも――
不思議と、胸の奥に小さな火が灯る。
ブラック企業で叩き上げられた、業務効率化スキル。
理不尽耐性。
観察力。
(……これ、仕組みは同じじゃない?)
人を締め付ける監督役。
非効率な作業工程。
下にしわ寄せがくる構造。
時代が違うだけ。
「後宮……とか?」
遠くにそびえる宮殿を見上げる。
ここが王城なら、私はその最底辺。
下女。
前世では、どれだけ働いても報われなかった。
なら――この世界では。
「使い潰される側で終わる気はない」
小さく、呟く。
その瞬間、背後から怒号。