後宮は恋愛する暇はありません!なのに皇帝がやたら近い件!
第5章 琳 後編
相手は――
「お前の言葉は、無駄にはならぬ」
去り際に聞こえたあの声が、耳に残る。
その頃、洗濯場を離れた廊下。
後ろの男が静かに問う。
「いかがでしたか」
素服の男は薄く笑う。
「叩く前に整える、か」
一瞬、目を伏せる。
「……ああいう者が、朕の目の届かぬ場所にいるとはな」
後ろの男は恭しく頭を下げた。
「いかがなさいますか」
男は歩みを止めない。
「まずは洗濯場の点検だ」
そして小さく付け加える。
「琳、か。覚えておこう」
その名が、静かな夜の廊下に溶けた。
――こうして、下女・琳は知らぬまま、蒼煌帝国の頂点に立つ男の記憶に刻まれたのだった。