緋色の海に溶ける蜜情 【ONE PIECE 赤髪 R18】
第3章 欠けた左腕と、蜜の体温
(もう、看病は必要ない……。私があの人に触れる理由は、もう……)
胸の奥が、ちりりと焼けるように痛む。
自由になった彼を見て嬉しいはずなのに、独占できていた時間が失われた寂しさが、どろりとした不安になって足元を浸食していく。
「……あ」
思わず視線を落としたの肩を、大きな、分厚い手がポンと叩いた。
「少し、風に当たってくるか」
ベックマンだった。
彼はいつものように紫煙をくゆらせ、顎で甲板の方を指した。
潮風が、上気したの頬を冷やしていく。
ベックマンは手すりに寄りかかり、遠い水平線を見つめたまま口を開いた。
「あいつは、一度懐に入れた身内を一生離さねェ男だ。それは、お前もよくわかってるだろ」
「ベック、さん……」
「……看病が終わったからって、何かが終わるわけじゃねェよ。むしろ、こっからが本番だ。……あんまり、一人でナカを煮詰めるなよ」
ベックマンの言葉はまるで彼女が夜な夜な自室で、シャンクスを想って自身を慰めていることまで見透かしているかのように響いた。
「……私、あの人に、ふさわしくなりたいんです。でも、ただ助けてもらっただけの私じゃ、いつか捨てられちゃうんじゃないかって……」
「捨てやしねェよ。……あいつがどれだけ理性を絞り出して、お前を『大切に』扱おうとしてるか。少しは汲み取ってやれ」
ベックマンはニヤリと、どこか意地の悪い、けれど温かい笑みを浮かべた。
「お頭はな、お前のことをただの女として見てるだけじゃない。……自分の腕一本を捧げるに値する、特別な存在だと思ってる。自信を持て」
その言葉に、の瞳に溜まっていた涙が、一粒だけ零れ落ちた。
叶わない恋だと思っていた。けれど、彼が必死に自分を「抱かずに」耐えていた理由が、自分を貶めないための敬意だったとしたら。
「……はい。ありがとうございます、ベックさん」
彼女が顔を上げた時、その表情には微かな強さが宿っていた。
シャンクスが自分を「自由でいろ」と言うのなら、自由なままで、全力で彼を追いかけよう。
いつか、彼が理性の鎖を自ら引きちぎって、自分を求めてくれるその日までーー。