緋色の海に溶ける蜜情 【ONE PIECE 赤髪 R18】
第3章 欠けた左腕と、蜜の体温
東の海の穏やかな波を切り裂き、レッド・フォース号は偉大なる航路を目指して突き進んでいた。
フーシャ村での凄惨な事件は、再びの心に消えない傷を残したが、赤髪海賊団の連中は驚くほど普通に、そして温かく彼女を仲間として扱い続けた。
「おい! 今日のメシは何だ? 腹が減って力が出ねェよ!」
「お前さっき肉食ったばっかりだろ。ほら、を困らせるな」
ルウやヤソップが笑いながら割って入る。
そんな日常の光景が彼女の凍りついた心を少しずつ、確実に溶かしていた。
かつての恐怖で溢れた「蜜」の香りは、今は仲間たちを和ませる、穏やかで甘いバニラの香りへと再び戻っている。
だが、船内でただ一人、この世の終わりのような顔をしている男がいた。
「……なぁ、一杯。たった一杯でいいんだ。ホンゴウ、頼むよ」
寝台に腰掛けたシャンクスが、すがるような目で船医を見上げていた。
左肩の包帯はまだ痛々しいが、本人の一番の苦痛はそこではないらしい。
「ダメだ。お頭、あんた血管を繋ぎ直したばっかりなんだぞ。今酒を飲んで血行が良くなってみろ、傷口が跳ねてまた縫い直しだ」
ホンゴウはカルテを片手に、冷徹に言い放った。
「そこをなんとか……! ベック、お前から言ってくれ。船長の命令だ、酒を持ってこい!」
「あいにくだが、今回ばかりは副船長権限で却下だ。……お頭、あんたが早く治らねェと、この先『山』を越える時に困るのは俺たちなんだぜ」
ベックマンは紫煙をくゆらせ、目も合わせずに突き放す。
「うぐっ……。お前ら、冷てェなぁ……」
シャンクスはぐったりと枕に沈み込んだ。
普段なら「船長の勝手だろ!」と笑い飛ばす彼だが、今回ばかりは自分の不徳の致すところ――ルフィとを守るための負傷――という負い目がある。
皆が自分を心配してくれているのが痛いほどわかるからこそ、強く言い返すこともできなかった。