緋色の海に溶ける蜜情 【ONE PIECE 赤髪 R18】
第1章 甘露に溺れる地獄
「……あいつ、いい顔になってきたな」
ベックマンが隣で煙草を燻らすと、シャンクスは満足げに頷き、ぐいと酒を煽った。
「ああ。無理に笑ってるわけじゃねェ。……本人が大丈夫なら、それでいい」
今の彼女が滲ませているのは、労働のあとの健やかな汗だ。
悪魔の実の性質で彼女が動くたびに、厨房にはほんのりと優しい甘い香りが漂う。
だが、この船の男たちはその香りを嗅いでも、卑しい欲望を剥き出しにすることはない。
「なんだか、いい匂いがするな。今日のデザートは特別か?」
「バカ言え、が頑張ってる証拠だよ。元気な証拠だ」
それはかつて、絶望と屈辱の象徴だった。
けれど、この船ではそれが「彼女がそこにいる」という安らぎの印として受け入れられていた。
船が穏やかな海域に入り、水平線の向こうに島影が見え始めた頃、甲板の端で海を眺めていたの隣に、シャンクスがふらりとやってきた。
いつもの酒瓶は持たず、その眼差しはどこか真剣だった。
「。……あの島が見えるか? ゴア王国にあるフーシャ村ってところなんだが、俺たちがしばらく拠点にしている場所だ」
シャンクスは水平線を指差し、言葉を継いだ。
「そこでお前、船を降りるか? 無理にいろとは言わねェ。お前さえ良ければ、あそこで普通の生活に戻る手助けはできるぜ」
その問いに、は胸が高鳴るのを感じた。
赤髪海賊団の男たちは、地獄から自分を救い出してくれた恩人だ。
この数週間、彼らと過ごす時間は温かく、安心できるものだった。
だが、足元が常に揺れ、潮の香りと男たちの荒い声に囲まれる生活は、元来の踊り子だった彼女にとって、どこか心が休まりきらない場所でもあった。
「……降りても、いいんですか?」
「ああ。あそこは平和な村だ。お前が望むなら、マキノっていう知り合いの酒場を紹介する。そこならお前も、静かに暮らせるはずだ」
は、シャンクスの真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
この船の居心地は悪くない。
けれど、土を踏み、花の香りを嗅ぎ、誰にも怯えずに眠れる「日常」を、彼女の魂は渇望していた。
「私……降ります。ここで、もう一度やり直してみたいんです」
「そうか。決まりだな」
シャンクスは満足げに笑い、彼女の頭をポンと叩いた。