第2章 きっかけ
〜ドズル目線〜
「……であるからにして、このような病気は治すことは不可能であり、身柄を国に渡して牢獄に送り込むのが医師としての正しい行為である」
僕はドズル。勉学を積んで僕は今、こうして医師になるための授業を受けていた。
僕はいつものように、教壇に立つ先生の言葉をノートに書き写していた。あとで復習するためだ。
だけど、その日の僕は、なぜか思うようにペンを動かせなかった。
「先生──」
僕はよく考えもしない内に発言をしていた。授業は静かに聞くものだ。そんな静かな教室の、ましてや成績優秀な僕が規律を破ることを発したのだから、周りの視線が痛い気がした。
視線が痛い? そんな言い方が論理的におかしいのは頭では分かっていた。だって視線は、目に見えないものだ。見えないものが痛いって、本当におかしい。
それが感情であることを、この時はまだ何も知らなかった。
「何かね、ドズルくん」
先生は怒ることもなく僕に質問を返した。そうなのだ。僕は先生に怒られたことがない。なんなら先生が他の生徒に怒ったこともないし、僕だって先生に怒ったことはない。それに、周りだって……。
そこで僕はふと気づいた。「怒る」って、なんだったっけ?
「……ドズルくん?」
「あ、いえ」僕は考えすぎて黙り込んでいたことに気づいた。「ただ、気になっただけなんです。愛という病気に罹った人が、どうして監獄に行かなきゃならないのかって」
「ドズルくん……」
先生は眉一つ動かさずに僕を見つめた。この感情が戸惑いだったこと、今の僕なら分かる。ただ、当時の僕は、いけないことを話したのだろうということしか分かっていなかった。
「すみません、なんでもないです」
「よろしい」
先生は踵を返し、授業は淡々と続いた。
だけど僕の中ではその時から、ちょっとずつ何かが変わっていたんだ。何が変わったのか、今となっても分からない。
僕は、医師になる夢を諦めて、学校を辞めた。