第7章 大切な記憶
「誰……?」
ぽかんとした顔でそう訊いたぼんさんも、知らない豚のようである。というか知り合いに豚がいたら、ぼんさんとの雑談で耳にはしそうなものだけど。
「あ、お初にお目にかかります、おおはらMENです」いきなりズカズカと来た無遠慮な人物かと思えば、やけに丁寧な言葉で彼は言った。「いやぁ、さっきドズぼんさんたちのサーカスを見ていたよくいる一般的なただの観客なんですが……」
「いやいや! どう見ても普通の人間じゃないでしょ!」
大豚が淡々と自己紹介を述べるから僕もうっかり流されるところだった。僕がそうツッコミを入れると、大豚は満足したかのようにゲラゲラ笑った。
「いやいや、ほんとに、俺はそこら辺にいるような一般人で……まぁ見た目は豚ですが」
と笑いながらMENとやらは自分が豚であることは認めた。
「へー! 喋る豚さんなんて初めて見たわ! こんな人もサーカスにいたんですね!」
ところがおらふくんは、こんないかにも怪しい侵入者をすんなり受け入れるどころか目をキラキラさせて僕にそう言った。軍隊の中で弓兵をやっていたとは思えない楽しげな目だったことを覚えている。
「いや、この人はここで初めましての人で……」
「MENっていうのか! それにしてもデカイツルハシを持ってるんだな!」
僕は説明をしようとしたけれど、それよりも早くぼんさんがMENに普通に話しかけていて、もしかしてこの唐突な状況を飲み込めていない自分が一番おかしいのだろうかと考えた。
しかもサングラスでいかにも怪しいぼんさんに、MENは嫌がる様子なく受け答えをしている。その話を聞く限り、どうやらMENはこの近くで建築士をしているようで、さっきも手持ちの余り物でテントの穴を塞いでくれたようだ。
「ということで」
ひとしきり話し終えると、MENは意味深そうに僕に目を向けた。僕は悟った。これはテントを修理したから高額な請求をされるヤツだ。こういうことになるならちょっとは高いテント小屋を買うべきだった、と今から反省をしかけたところで、MENはこんなことを言い出したのだ。
「ドズルさんって、なんで半裸なんです?」
「……え?」
え?
これがMENとの出会いだったなんて、今思い出しても笑える本当の話だ。