第3章 ふたつ目のお話「足を引く怪」
ところが、さあ、帰ろうということで岸辺を見ると、思いもかけず沖まで来てしまっていた事に気づいた。
引き潮というわけではないはずなのに・・・
僕は少し慌てて、友人を促し、岸に向かって泳ぎ始めた。
日が徐々に傾いてくる。
バタ足をしたり、手で掻いたりするが、一向に岸に近づかない。
変な潮の流れがあるのかもしれない。
もしかして・・・
「なあ、あの伝承は、もしかしたら、今日のこの日、島から離れる海流が強くなるから、海に出るな、とか言う意味じゃないよな?」
僕は友人に尋ねた。
もしそうだとしたら、僕らは本当に遭難するかもしれない。
「いや、そんなわけない。そんな特別な潮が一日だけあるなんて聞いたことない」
そりゃそうだ。
杞憂だったのか・・・
だが、岸は一向に近づいてこない。
夕日が沈みだした。
いつの間にか時計は5時を回っていた。
僕はますます焦ってきた。
「があ・・・!」
そのとき、友人が突然、声を上げた。
ライフジャケットを着ているはずなのに、溺れるように手が宙を掻いている。
「おい!」
僕は友人の手をつかみ、引き上げようとしたが、ものすごい力で引っぱられているようで、顔を引き上げることすらできなかった。
それどころか、自分まで引き込まれそうになり、ガボっと海に顔を突っ込んでしまった。
そして、潜った先に見たものは、一生忘れない。
友人の足に幾重にも絡みついた黒い手、崩れ落ちそうなほど腐った人の顔
何かが友人を悪意を持って引き込もうとしていた。
それを見た瞬間、恐怖のあまり、僕の意識が途絶えた。
目が覚めると、島の病院のベッドだった。
ライフジャケットのまま漂っているところを付近の漁師が助けてくれたようだった。
友人は行方不明だと言われた。