第3章 ふたつ目のお話「足を引く怪」
7月11日の夜半、K実からメッセージアプリ経由でビデオ通話があった。ちょうど食事をしようとした矢先だったので、あとにしてくれと言ったのだが、「食べながらでもいいから」と無茶なことを言い出す始末。一瞬、切ろうかと思ったが、K実だからいいかと思い直した。
K実としては、今日聞いてきた話を私に聞いてもらいたかったみたいで、興奮気味に以下の話をしはじめた。
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【U閣の古参中居Aから聞いた話】
T県にあるI島には、「絶対に夜、海を見てはいけない日」がある。
こういった伝承自体は、さほど珍しいものではなく、日本全国に同じような話が伝わっている。その多くは、何らかの神事のためであるとか、夜に海に行って遭難することを戒めるためなどの理由で言い伝えられたものだ。
「海を見ると祟られる」などということで、海への畏怖を忘れないようにする役目もあるかもしれない。
僕自身、I島の伝承も、そんなよくある言い伝えのひとつだと思っていた。
今思えばやめておけばよかったのだが、この伝承に興味を持った僕は、I島出身の友人と一緒に『海を見てはいけない』と言われている、まさにその日に島を訪れた。
古くからその土地に住んでいる信心深い住民は、その日は朝から家の戸に目を土で塗り潰したザルを下げ、家に閉じこもっていた
「昔からこうだ。この日は店も開けないで家にいる。余程の用事がない限り、外出もしない」
と、友人は言った。
「安息日みたいなものなのかもしれないな。働きすぎないように、とか」
僕は考察めいたことを口にする。
昼間ならいいだろうということで、せっかく夏のいい季節に来たのもあり、僕らは海に入ることにした。
I島の海はとてもきれいで、岸近くにも関わらず大小の魚が泳ぐ姿を間近に見ることができた。
ライフジャケットを着て、シュノーケリングを楽しんでいた僕らは、海の美しさにすっかり魅了されていた。
そして、午後4時を過ぎた頃、そろそろ夕方に差し掛かり、さすがに上がらなければまずいだろうという話になった。
僕自身は全く祟りだのは信じていないが、島で育った友人は、やはり何か落ち着かないらしく、帰りたそうにしていた。