第2章 ぎこちなく響くアン・フェール【禪院家/狩人】
一通り周囲を警戒して戻ってきた脹相の足音が耳に届いた。
「悠仁、ケガの具合はどうだ?」
「【黒閃】を食らったとこ以外は……まぁ、平気」
おそらく、宿儺の影響だろう。ヤツの力が大きくなっているのを感じる。
そう呟くように零し、虎杖は深く息を吐き出した。すると、脹相の足音が近づき、隣で止まる。
「悠仁、俺に気を遣うな。高専に戻っていいんだぞ。俺も焼相たちの亡骸を回収したいしな」
「遣ってねぇよ。俺が戻りたいかどうかの問題じゃねぇ」
宿儺が伏黒や星也、詞織……いや、詩音を使って何かを企んでいる。
「それに俺は……人をいっぱい殺した……」
――「自分が助けた人間が将来 人を殺したらどうする?」
「――俺はもう、皆と一緒にはいられない」
あの日の伏黒の言葉が、ずっと自分に跳ね返ってきている。
宿儺を通して見た光景が、血の鮮やかさが、引きつった悲鳴が……瞼の裏や耳の奥から離れない。
「脹相こそいいのか? 俺は、オマエの弟も殺したんだぞ」
八十八橋での任務で、虎杖は釘崎や詞織、順平と共に、脹相の弟である壊相(えそう)と血塗(ちけず)を殺した。
実際、そのことで脹相と渋谷駅で殺し合い、瀕死にまで追いつめられた。
「いい――アレは事故だ」
淡々とした静かな声音で脹相は続ける。
「壊相も血塗も、俺と同じ立場なら同じようにしたはずだ」
――赦す赦さないじゃない。兄弟とは、そういうものだ。
なぜ これほど……脹相が自分を兄弟と呼ぶ理由が分からない。
間違いなく自分は脹相と命のやり取りをした。そこには殺意があって、憎悪も向けられた。
意味が分からない――けれど、彼の瞳からはもはや殺意も憎悪も感じられなかった。
「……行こう。今はとにかく呪霊を減らさないと」
今はもう何も考えたくなかった。
ただひたすら、歯車の部品に徹する。
* * *