Tell My World 【ヒロアカ 爆豪勝己】
第2章 初恋は、0と1の境界線上で
「来週の土曜。……場所は、ここだ」
彼はデバイスのマップ上に、海の見える閑静な公園の座標を打ち込んだ。
「時計台の下で待ってるからな。……来なかったら、来るまで動かねぇ」
「……BLAST……」
その強引で、けれど一途な瞳に、ついにエミリアの堤防が崩れた。
彼女は震える指先で彼のシャツを掴み、小さく頷いた。
「……分かりました。……行きます。……私を見つけて、くれますか?」
「当たり前だ。……当日の服だけ、教えとけ」
互いに本名も、プロヒーローであることも明かさないまま。
爆豪は「全身黒コーデでキャップとブルゾンにパンツとスニーカーだ」と伝え、エミリアは「白ワンピースに、青いリボンの帽子につけていきます」と返した。
仮想の海辺で交わされた、初めての「現実」の約束。
ログアウトした後の自室で、爆豪は激しく打ち鳴らされる心臓の音を抑えつけながら、新車のシートの感触を思い返していた。
一方のもまた現実のクローゼットの前で、自分を隠すためではなく、彼に見つけてもらうための服を取り出し見つめていた。
彼女にとって外に出る事は、籠の中から未知の世界へ飛び出すようなものだった。
バーチャルでの数えきれないほどの視線を浴びるステージとは違う、生身の人間が交差する街の雑踏。
最後に一人で歩いたのがいつかも思い出せないほど、彼女にとっての現実は、常に「歌姫」という虚飾のカーテンに守られた、狭く安全な場所だった。
(……怖い。でも、あの人の声が聴きたい。システム越しの音じゃない、本物の声を)
初恋という名の、あまりにも重い熱量。
現実(リアル)という名の、あまりにも眩しい世界。
「……BLAST。……あなたに、会いに行きます」
世界で一番遠くて、世界で一番近い場所へ。
彼女は、自分の人生を塗り替えるための一歩を、決意したのだったーー。