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幻想遊園地

第2章 天使の絵


もう体の自由もままならぬ彼は、目だけを空に向けた。
空は微かに光を受けて、夜の黒から深い青を生み出していた。

「モウスグ、夜ガ明ケル」
天使も、誘われるように東の空を仰いだ。
「そうね」
「天ノ使イヨ、我レハ、アト、何時、コノ空ヲ、見テイラレルノカ?」
彼が、重々しく尋ねる。
天使は彼の身体に頬を寄せ、その命の鼓動を聞くように耳を澄ませた。
「私には、それはわからない。でも、仮にそれが分かっていたとしても、あなたには言わないわ」
「ソウカ⋯、ナラバ、聞クマイ」
彼は答えて、また目を閉じた。

天使にとって、生命の尽きるその瞬間を見届けるのは、嫌いなことではなかった。
実際、今も、彼に向けている瞳は、憧れの色彩すら帯びている。生きているものが全て美しくあるように、その死の間際もまた綺麗だと天使は思った。

冷たい空気が透き通るような静寂を含んで、そっと佇んでいた。

彼が口を開いた。
「天ノ使イヨ、我レガ生マレ出ヅル遥カ昔ハ、コノ地モ、コレホドニハ、冷タクナカッタト、聞ク。巨キナル木々ガ繁ル森ハ、彼方霞ニ紛レルマデニ続イテイタト言ウ。」

天使は彼の大きな体躯を見渡すのを止め、くるりと、あどけない顔を彼に向けた。

「そうね、そう、あなたのおじいさんのおじいさんの、おじいさんの、そのまたおじいさんの、おじいさんの⋯とにかく、ずうっーと昔は、そうだったわね。地面はずっと向こうまで森で、もっとずっと暖かだった。海にも、陸にも、そしてこの空にも、あなた方の一族が、繁栄を誇っていた、その頃はね。」

そして天使は、にっこりと笑って見せた。
彼は目をつむったまま、吐き出すようにポツリと呟いた。

「モウ全テ昔日ノ彼方ダト、言イタ気ダナ。」
天使は、彼の言葉に、軽い口調で答えた。
「もう、昔のことよ」
彼はふと苦笑を漏らした。
「ソウ、ソレハ、分カッテイル。分カッテイルノダ。」

そして、続ける。
「⋯見ロ、天ノ使イヨ、夜ガ、夜ガ明ケル【音ガスル】!」

天使は空を振り仰いだ。空は海の底の濃紫から、仄かな紅へと、その色調を変えていった。東の空の積雲は紅に染まり、燃える炎の燈色に似ていた。
遠くに連なる山々の間に、一点、眩い光が灯った。

「ええ、何も変わらぬ、夜が明けるわ。」
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