かぐや姫だって幸せになりたい!!【銀魂 坂田銀時】
第3章 彼はかぐや姫に幸せになってほしかった
彼女が去った後の地上には、彼女を奪い合おうとした男たちの記憶と、あまりに美しかった「かぐや姫」の断片だけが残され、いつしか、その真実は形を変えた。
『男たちの求婚を袖にした、高慢で尊い姫の物語』
『月へ帰る際、羽衣で地上の記憶をすべて忘れてしまった悲劇』
愛する男のために待ち続けた女の執念も、彼女を逃がすために命を捨てた名もなき守り人の存在も、歴史の闇に葬り去られ……『竹取物語』として語り継がれることになったのだ。
一千年の月日は、冷たい宮殿の奥底で祈り続けるにとって永遠とも思える地獄だった。
使者たちに「銀は死んだ」と告げられ、無理やり連れ戻されたあの日から、彼女は一度もその瞳に希望を宿したことはなかった。
羽衣を纏わされた心は凍てつき、ただ月の輝きを保つための「器」として、空っぽの祈りを捧げる日々。
だが、ある夜。
祈りの中で彼女の魂が微かな、けれど烈火のような「鼓動」を捉えた。
(……あ……。この、温もり……)
それは一千年前、処刑場の露と消えたはずの、あの男の魂。
記憶の断片すら残っていないはずの銀の魂が、遠い青い星で新たな命として産声を上げ、今、確かに生きている。
(銀……。貴方は、生きている。……生まれ変わって、そこにいるのですね)
その確信が凍りついていた彼女の心を溶かした。
一度目は、銀に救い出された。
けれど二度目は、自分が自分を救い出す。
彼に、一千年分の「愛してる」を言うために。
は静かに、けれど大胆に動いた。
宮殿の守護という重責を逆手に取り、祈りの力を暴走させ、結界が揺らいだ一瞬の隙を突く。
追っ手の目をかいくぐり、かつて銀が教えてくれた「地上への光」だけを道標に、彼女は再び、地上への道標へと身を投げ出した。
彼女が辿り着いたのは、夜の歌舞伎町。
記憶の中にある地上とは似ても似つかぬ、天人が闊歩し、ネオンが刺すように光る奇妙な街。
力尽きようとしていた彼女の前に、一人の男が現れた。
死んだ魚のような目、不規則に跳ねる天然パーマ、腰に下げた木刀。
その姿を見た瞬間、の視界が涙で滲んだ。
一千年前、自分を逃がしてくれたあの「銀」そのものだった。