かぐや姫だって幸せになりたい!!【銀魂 坂田銀時】
第2章 かぐや姫は月に帰りたくない!!
包帯に巻かれた銀時が横たわる病室は、静まり返っていた。
夜の帳が下りた窓の外には、皮肉なほどに煌々と、あの忌々しい月が浮かんでいる。
「……目覚めたか」
不意に重厚な声が響き、銀時は重い瞼を持ち上げた。
そこには徳川茂茂が立っていた。
将軍の目はまるで友を案じるかのように、そして同じ悲しみを共有するかのように静かだった。
「……将ちゃんかよ。公務はどうした……。ここは、バカ殿が来るような場所じゃねーよ」
掠れた声で毒づく銀時に、茂茂は何も言わず、懐から一枚の布を取り出した。
それはあの夜、が彼に授けた月光の薄衣。
「……これを、貴殿に返そう。余が持っているよりも、貴殿が持つべきものだ」
銀時の震える掌に、羽衣が重なる。
の香りが微かに残るその布を握りしめた銀時に、茂茂は語り始めた。
一千年前の真実をーー。
「銀時。貴殿は知っているか。……『かぐや姫』の伝承が、単なる作り話ではないことを」
茂茂の声は、歴史の闇を紐解くように深く、切なかった。
一千年前。
地上に降りた姫が、帝や貴族たちの求婚をすべて断り、月へ帰ったという物語。
「物語では、彼女が地上の者を愛さなかったように描かれている。だが、真実は違うのだ。……彼女が誰の手も取らなかったのは、愛を拒んだからではない。……取れるはずがなかったのだ」
「……どういう、意味だ」
「彼女には、生まれながらにして課せられた『天命』があった。……月の宮殿を守護するため、永遠に祈りを捧げ続けるという呪縛だ」
月の宮殿は、彼女の「祈り」を糧にしてその輝きを保ち、外界から姿を隠す。
彼女は贅を尽くした牢獄に閉じ込められ、ただひたすらに感情を殺して祈り続けるだけの器。
外の世界を知ることも、誰かと手を取り合って笑うことも許されない。
「羽衣を纏えば記憶を失うという伝承も、後付けの嘘に過ぎない。……本当は、記憶など消えぬのだ。消えない記憶を抱えたまま、冷たい宮殿の奥底で、愛した地上の景色を想い、未来永劫祈り続けなければならない……。それが、月における『かぐや姫』の正体なのだ」