かぐや姫だって幸せになりたい!!【銀魂 坂田銀時】
第2章 かぐや姫は月に帰りたくない!!
「…………っ」
土方の咥えていたタバコが、ポロリと地面に落ち、沖田のバズーカが、カシャンと音を立ててその銃口を下げた。
そこに立っていたのは、歌舞伎町の喧騒さえも浄化してしまうような、圧倒的な美しさだった。
「……土方さん。俺ァ今、幻覚でも見てるンですかねィ。あんな綺麗なもん、この世に存在していいんですかい」
「……黙れ、総悟。……俺にも見えてる」
土方は珍しくドギマギとした様子で、不自然に視線を逸らしたが、どうしても視線が吸い寄せられてしまう。
は警護に当たる真選組の面々に向けて、ふわりと慈しむような微笑みを向けた。
「皆様、いつも江戸の平和を護ってくださり、ありがとうございます。……今日は、私の精一杯を、皆様に届けたいと思います」
「「…………っ!!」」
その声が耳に届いた瞬間、土方も、沖田も、背後にいた山崎も、一斉に顔を真っ赤にして固まる。
そんな様子を舞台袖で見ていた銀時は、鼻をふんと鳴らした。
「おいおい、税金泥棒ども。鼻の下伸びてんぞ」
「では、次はエントリーの最後の方です!」
司会の声と共に彼女がステージのライトに姿を照らされた瞬間、数千人の観衆で沸き立っていた会場が、水を打ったように静まり返った。
「……っ」
誰かが息を呑む音が聞こえる。
そのあまりの美しさに、時が止まったかのような錯覚。
彼女の歌は、聴いたことのない不思議な旋律だった。
紡がれたのは、胸が締め付けられるほどに切ない歌。
――幾千の夜を越えて 貴方の背中を追いかけた
この手から零れる光さえ 貴方が忘れたと言うのなら――
の歌声は鈴の音のように清らかで、けれど、この世の終わりを見届けてきたような深い孤独を孕んでいた。
「……なんだよ、この歌……」
銀時は、舞台の袖で立ち尽くしていた。
彼女の切ない声は聴く者の心に直接、氷の楔を打ち込んでいく。
言葉にできない彼女の痛みが、旋律となって会場中に降り注ぎ、いつの間にか涙を流している者もいた。
招待されていた将軍も、松平も、真選組の面々も。
は持てる魂のすべてを注ぎ込んで歌いきった。
その歌が、自分をこの場所から引き剥がす標になるとは思いもせずに――。