第1章 京都にて
「それに坊ちゃん。実は私もここを辞める予定だったんです。」
「はぁ!?」
五条は顔をあげ、じぃを見た。
小さい頃から五条家に仕えるじぃ。ここにずっといるもんだと五条は思っていた。
「年齢も年齢ですからね、大奥様にゆっくり休んでいいと言われて、故郷へ帰ろうと思っていたんですよ。」
大奥様というのは、五条の母だ。
五条は少し寂しそうにじぃを見つめた。
そう言われてしまったら引きとめることはできない。
「でも、荷物をまとめる私に奥様がここにいて欲しいと言ってくれたんでね。残ることにしたんです。」
「が?」
「えぇ。いるだけでいい。たまに庭でもいじってくれるだけで、構わない。もちろん給料も払うからとね。」
ベテランがいてくれた方が何かしらまだ役に立つと思ったんだろうかと、五条は首を傾げた。
そんな五条をみて、じいは笑みを深めた。
「帰ってきた悟さんに声をかけて欲しい。そう仰ったんですよ、奥様が。」
「僕に?」
「高専に入学したばかりは、ここに帰ってくるたびにご友人のことを話してくれてたのに、最近はめっきりでしょう。」
「……」
五条は、夏油のことがふと頭をよぎった。
特にあったことはじぃにも、両親にも話してはいない。
有名な話ではあるから噂としては聞いてはいるんだろう。
「卒業してからは当主としても余計に忙しそうにされてる悟さんが、心配なんですよ。じぃは。奥様も言葉にはしなくとも、悟さんを思って私にここに残って欲しいと行ったんだと思いますよ。」
帰ってきた時に心を許し、なんでも話せるじぃが家にいることが五条にとって最善であるとは判断したのだろう。
「できた方ですよ、奥様。よかったですね。」
「そう…だな。」