第4章 【日車】有限の閃き
値段の割に上品な量のアイスはすぐになくなってしまった。
「終わっちゃいましたねー」
は少し寂しそうな目で重ねたアイスのカップを見ていたが、きっと今日という1日に対しての言葉であろう。
「日車さん」
「なんだ?」
「今日、すごく楽しかったです。ありがとうございました」
「そうか」
「そういえば私、ただやりたいことをやっていただけで、自分『らしくない』なって思って何かをしていないんですけど、ちゃんと『らしくない』できてましたか?」
「あぁ、十分だ」
「それならよかった…『らしくない』って楽しいんですね」
「それは『らしくない』の方向性によるだろう」
「そうですか?でも、私、日車さんの『らしくない』は可愛くて大好きです!」
は無邪気に笑って覗き込んでくる。
(……無知とは、罪だな…)
日車は立ち上がり、自分を見上げてくるに何も言わずに手を差し出した。
は「?」となりつつも差し出された手を掴んで立ち上がった。
そのまま日車はの腰に手を回して距離を詰める。
反対の手はの顎に添えて軽く持ち上げ固定する。
顔は吐息を感じられるほど近づける。
「これが、方向性の間違った『らしくない』だ」
耳元で低く、囁く。
顔を離して、の瞳を見つめながらイタズラっぽく笑ってみせる。
視線が絡む。
の目は見開かれ、顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
何か言おうとして開いた唇は微かに震えている。
(あぁ、俺にもそんな顔をしてくれるのか…)
それに満足したようにを拘束していた手を離した。
「…今のは」
は未だに赤い顔をして震えている。
「今のは完全に悪徳弁護士の顔でした!」
「あぁ、たまに悪い弁護士を演じてみたくなるんだ。俺の『らしくない』は『可愛い』んだろう?」
「い、今のは…今のは『可愛い』じゃないです!」
そう言うと置いてあったアイスのカップを拾い上げ、「わ、私、ゴミ捨ててきます!」と店内へ駆け込んでいった。
が店の自動ドアへと消えるのを見送ると、日車は小さく息を吐いた。
「……やりすぎたか」
そう呟きながら、夜空を見上げる。
口元にはまだ笑みが残っている。
(……だが後悔は、ない)