第4章 【日車】有限の閃き
丘を登りきる頃には空は少しずつ色づき始めていた。
二人で展望台の1番端で手すりに寄りかかるようにして空を見る。
「空が夕焼けに変わるところを初めてみました」
「そうか」
「このまま日が沈むまで見ていてもいいですか?」
「あぁ」
「この世界には他に楽しいことがいくらでもあるのに、何もしないで夕日が沈むところだけ見てる。それってすごく贅沢な時間の使い方ですよね」
「そうだな」
1000年生きてもそのような感性を残していることに日車はただただ感服した。
それはただが人間であろうとする心なのだろうな、とも感じる。
二人の間にしばらく沈黙が流れる。
その沈黙は決して居心地の悪いものではなく、むしろそれが心地良い。
(今ならば、言ってもかまわないだろう)
日車はそう判断した。
「昼間の談話室での話だが…」
「はい」
は驚いた様子もなく返事をする。
もしかするとこの話をされるかもしれないと予想していたのではないかと思うくらいに自然に。
「お前は『正しかったのか』と言っていたな」
「はい」
「『正しさ』とは普遍的で多面性があり、日が変われば真逆にだってなり得るほど不確かなものだ。そんなものを俺が是非を言うことはできない」
「…はい」
「お前のしたことは、自然の摂理を捻じ曲げ、時間の法則を壊し、命の尊厳を踏みにじったかもしれない」
「……」
は苦しそうに少しだけ眉を寄せた。
「だが、誰からも何も奪った訳じゃない。誰かを傷つけた訳でもない。ただ取り戻しただけだろう?自分の持っているものを全て差し出して。その対価として、大切なものを。そんなこと、人間なら誰でもやっている」
「…」
『人間』というワードにの眉に入った力が少しだけ抜ける。
日車はに向き直った。
も日車の方に身体を向けた。
「だから、お前の問いに対する俺の見解は『正しいかどうかはわからない』。ただ、お前の選択は人間としては『間違ってない』だ」