第4章 【日車】有限の閃き
車に戻り、ぬいぐるみを後部座席に乗せた。
が律儀にシートベルトまでしてやっている。
「ぬいぐるみにシートベルトは必要なのか?」
「全席シートベルトは義務ですから」
それはぬいぐるみには適用されないだろうと釈然としない気持ちはあったが、に倣ってシートベルトをつけてやる。
それが終わると、「今何時ですか?」とが尋ねてきた。
腕時計を確認して時間を伝える。
「そろそろ帰るか?」
「いえ、ちょっと…夕日が見たいな…って思って…」
「…そうか。じゃあ、高専に向かいながら夕日が見えそうなところに寄るか」
「はい!」
は自ら助手席に乗り込んでシートベルトをつけた。
「安全運転でお願いします!」
「さっきも言ったが、実際の運転は法令順守、だ」
「はい。日車さんの運転はスピード出しても出さなくてもカッコイイです」
「……」
車がゆっくりと走り出した。
夕日が見える場所に向かう道中は取り留めもない話を、主にがしていた。
高専でどんな仕事をしてるだとか、高専メンバーでどんなことをしただとか。
日車は情報管理はどうなっている?と疑問に思いもしたが、自分が守秘義務を守ればいいかと聞いてやる。
本人は気づいていないかもしれないが、「脹相はね…」や「脹相がね…」など脹相が主語の話が散見される。
「…アイツの話ばかりだな」
そこではハッとした。
「すみません、私ばかり話してて…」
「いい。そういえば今まで法律以外の話はしてこなかったな」
「でも、今日はいろいろなお話ができて楽しいです」
「…そうか。そろそろ着くぞ」
車は展望台がある丘の駐車場に停まった。
車を降りて、丘を登る。
もうすぐ夕焼け。
綺麗に見えそうな場所なのに訪れるのは親子連ればかりのためかすれ違う人数が多い。
幸せそうな家族とすれ違うたびに、は穏やかな笑みを浮かべる。
他人の幸せが自分の幸せ、と言わんばかりに。
(…これは比丘尼モードだな)
昼間の年相応の笑顔と今の全てを達観した微笑み。
相反するものがの中には共存している。
の出自を考えれば仕方がない。
どちらが彼女か?
どちらも、彼女だ。
どちらもなのだとしたら……