第4章 【日車】有限の閃き
歩いているとゲームセンターがあった。
半歩前を歩く日車は気にせず通り過ぎようとしたが、は「あ!」と声をあげた。
「どうした?」
の目線の先にはクレーンゲーム。
抱えなければ持てないような大きなぬいぐるみが入っている。
「これ、朝の情報番組で週に2回、5分間アニメーションでやっているキャラクターです」
「そうか」
「はい。今、とても人気のあるキャラクターなんですよ」
はガラスに顔を近づけてよく見ていた。
「…欲しいのか?」
「いえ…こんなに大きいぬいぐるみは場所を取りますし、汚れた時にどうやって洗えばいいか分かりませんし…」
「わかった。待ってろ」
日車は騒がしい店内に入っていった。
すぐに出てきたが、その手には紙コップいっぱいの100円玉を持っていた。
「え?」
驚いているを尻目にクレーンゲームに100円を投入した。
けたたましい音楽が鳴り始める。
「あの、私、欲しいって言っていません」
「そうだな」
「じゃあ」
「俺が女にぬいぐるみを取るなんて『らしくない』。それにこのぬいぐるみがの部屋にあるのも『らしくない』」
日車はニヒルに笑ってみせる。
「それは、そうですけど…」
日車はレバーを操作する。
「最後にやったのは20年くらい前だが、当時はレバーで動かせるのは縦横一回のみだった。今は時間制限内ならいくらでも動かしていいらしい」
だから楽勝だという雰囲気。
「この大きさであの形だと重心は…」とブツブツ呟きながらクレーンの位置を微調整してから降下ボタンを押す。
日車の分析どおり、クレーンはぬいぐるみの真上に降りて、開いたアームはぬいぐるみにガッチリ食い込んだ。
ぬいぐるみが高々と持ち上がる。
「わぁ!す―」
が歓喜しようとした瞬間、何の前触れもなくぬいぐるみがボタリと落ちた。
勝利を確信していた日車は「!?」と目を見開く。
も何が起こったのか理解できないように固まっている。
日車は無言で100円を入れた。
その後、何回やっても持ち上がるのに落ちるということを繰り返した。
遂には「これは何か細工されているな」「法的に問題ありだ」「詐欺罪だ」などとブツブツ言い始めた。
それでも硬貨投入は続いた。