第3章 【日車】ジャッジマンの戯れ
初めは、見た目年齢に対して落ち着いているな、といった印象しかなかった。
呪力は感じられないし、戦闘に必要なものが揃っている訳でもない。
どうしてただの人間がこの場にいるのか理解ができなかった。
その後、彼女の出自を知って、納得した。
納得してなお、彼女はこの場に相応しくないと思っていた。
九相図の為だけに存在している。
そんな女に見えた。
新宿決戦後。
彼女は抜け殻のようだった。
ぽっかりと空いた空洞を何かで埋めることもせず。
彼女が次にどうするか、少し興味がわいた。
彼女は自分の大切なものを捨てた。
そうまでして九相図を手に入れて、どういうつもりなのかわからなかった。
わからなくてもいいと思った。
そう思うほど、彼女は大きなものを失っているように見えた。
彼女と初めて話をしたのは本当にたまたまだった。
高専の談話室のテレビでたまたまニュースがやっていて、それをたまたま同じタイミングで見ていた。
話しかけてきたのは彼女の方からだった。
ニュースでやっている裁判の見解を訊かれた。
初めて話す内容としてはなんとも堅すぎるものだったが、如何せん俺の得意分野でもあるから話した。
聞いた後、彼女は少し黙った。
そして、違うニュースの事件に対して再び訊いてきた。
訊かれたから答えてやる。
言葉のキャッチボールは一往復のみ。
返したボールを再度放ってくることはなかった。
視線はテレビに向けたままそんなやり取りをしばらく続けた。
少し日にちが経ってからまた同じような場面に遭遇した。
今度は俺が放うり返したボールを打ち返してきた。
意外にも彼女は博学で、記憶力もいい。
思考力もある。
会うたびにキャッチボールの回数が増えていく。
次第に向かい合って話すようになっていった。
彼女との知識の応酬は心地良い。
彼女は日を増すごとに表情豊かになっていく。
人間らしくなっていく。
そんな彼女の変化を悪くないと思った。