第5章 愛を執り、染まる
私がそれ以上口を噤むと、部屋は静寂に包まれる。時計の針の音だけが、カチ…カチ…と響いていた。時間は止まることなく進み続ける。だけど、私たちを包む空気だけが時間を忘れた。
時間を動かしたのは私。このまま止まり続けるわけにはいかないから。そろそろ私たちは、前に進まなければならない。
「わかった。やめる。宗四郎は好きにしたらいいよ。それでも私は好きでいるから。もし、やめたくなったら言って?私とのことでも、他の女のことでも」
笑えるくらいあなたが好きで、笑えないくらいあなたを愛している。ずっと、私だけが好き。"軽い好き"なんて、始めから持ったことないよ。
肩で宗四郎が息を呑んだ。震えた指から力が抜け、身体が離れる。少し潤んだ宗四郎の赤紫の瞳が、酷く揺れている。選べないって言いたいの?別に今のことを言っているわけではないのに。
「………好きにするわ。……籍、入れよか。使えるもん全部使って、僕を縛ってや。もう――乃愛から逃げへん。乃愛の全部、欲しいんやもん」
私は何も答えられなかった。瞬きすらも忘れ、ぽろぽろと零れる雫は、宗四郎が拭ってくれる。舞い踊る胸は、一瞬にして静寂を取り戻した。
私は――保科にはなれない。宗四郎のご両親はきっと、許してくれないだろう。音芽だったら、そんな柵もなく、順風満帆に進んでいくんだろうな。
ふるふると首を振ると、宗四郎はわかりやすく落胆した。眉を下げ、肩まで落ちる。自分のしたことを後悔しているようだ。そうじゃないのに…。
大切な人の意向を無視して、自分が幸せになることを望んだりしない。説得して結婚出来たら、どんなに幸せだろうか。――認められたい。
「まだ出来ない。一番大変な問題が残ってるの。……でも、どうしたらいいかわからない。今さら隊員になんてなれないから…」
宗四郎は首を傾げる。肩を掴んでいた指が下りて、私の手を握った。
「……オカンらのこと?僕にいい考えあるで」
何かを企むような危険な笑みに、何?と言うように首を傾げた。