第1章 泡の飛沫
「副隊長、スーツ駆動限界まであと――3分です」
「了」
インカムの向こうで静かな声が落ちる。今回は余獣の数が多く、副隊長ですら苦戦していた。私は基地内で声をかけることしか出来ない。昔は前線で戦いたいと思っていたが、私はここが性に合っている。
大きなモニターに映し出された糸目のオカッパが、人懐っこい笑顔を見せた。つり上がった目尻が少し下がる瞬間。普通よりも少し尖った八重歯が見える瞬間。それはどれも…みんなが知っているもの。私だけの何かが欲しい。
戻ってきた隊員たちが、スーツから隊服に着替える。副隊長もそうして、オペレーションルームに来た。
隊服のファスナーはいつも、胸元まで下げている。そこから覗く首筋には――赤い跡があった。もしかして、気付いてないんだろうか。
「副隊長、少しよろしいでしょうか」
「ん?なんや」
オペレーションルームから連れ出し、ファスナーを上げる。副隊長は窮屈そうに眉を寄せた。
「なんや、嫉妬?」
「副隊長が風紀を乱してどうするんですか。"女抱いてました"みたいな、明らさまな姿を晒さないでください」
副隊長は少し首を傾げ、なんの話?とでも言いたげだ。やはり、気付いていなかったらしい。遊ぶなら、ちゃんと人を選んで欲しい。跡をつけるような子を選ばないで。
「え、キスマある?つけられとったんか」
気付かないなんてこと、あるのだろうか。寝ている間につけられた?それでも、鏡くらい見てから出勤するだろう…。
呆れながらも必死に笑顔を作って、「戻りましょうか」とオペレーションルームに戻った。