第3章 黎明の夢、夕暮れの再会
体育祭という大きな転機を経て、轟の纏う空気は劇的に変わっていた。
凍りついたままだった彼の心は、緑谷との激闘、そして母・冷との再会によって少しずつ溶け始め、への告白が彼に「一人の少年」としての安らぎを与えていた。
ある日の昼休み。
食堂の喧騒の中、轟は人混みの向こうにの姿を見つけるなり、彼女のもとへ歩み寄った。
「、隣いいか?」
「えっ、焦凍くん!? ……あ、うん。いいけど」
が驚きながらも席を空けると、轟は嬉しそうに口角をわずかに上げ、彼女の隣に腰を下ろした。
そのあまりに迷いのない動作に、同じテーブルを囲んでいた友人たちが一斉に色めき立つ。
「ちょっとちょっと! 轟くん、今日も直行だねぇ!」
「もう隠さなくてもいいんじゃない? 二人、本当は付き合ってるんでしょ?」
友人たちの直球な揶揄いに、は持っていた箸を落としそうになる。
「違うってば! もう、みんな……っ」
「……いや、付き合ってねえよ」
唐突に割り込んだ轟の静かな声。
が(あ、否定してくれた)と一安心したのも束の間、轟は蕎麦を啜る手を止め、さらりと言葉を続けた。
「俺が勝手に……惚れてるだけだ。今はまだ、片思いだな」
「…………えっ?」
食堂の空気が一瞬、フリーズした。
の友人たちは目を見開き、本人は耳まで真っ赤にして固まっている。
「ちょ、焦凍くん!? 何言ってるの……っ」
「本当のことだろ。……返事はゆっくりでいいって言ったしな。今は、こうして隣にいられるだけでいい」
そう言って、轟は赤面してうつむくを、慈しむような穏やかな眼差しで見つめた。
友人たちは一瞬の沈黙の後、それまで以上に盛大に騒ぎ出した。
「きゃー!! 轟くん、ストレートすぎる!」
「『片思い』って……あんなイケメンに言われたら、落ちない女子いないでしょ!」
「、顔赤すぎ! 茹でダコじゃん!」
「もう……っ、やめてよぉ……!」
が両手で顔を覆ってジタバタするのを、轟は否定も肯定もせず、ただ優しく微笑みながら見守っている。
その姿は、かつての「氷の貴公子」と呼ばれた冷徹な印象を微塵も感じさせない、恋をする一人の少年の顔だった。