第5章 手のぬくもり
少しの間、二人の心臓はくっついたように
抱きついていて…。
彼がアイドル嵐の二宮和也ということを
忘れてしまう時間だった。
『あの…二宮さん…』
「ねぇ…誰が好みなんです?
嵐の中で…」
二宮さんはあたしの話より
抱きついた姿勢のまま
さっきの質問をしてきた。
『あの…二宮さん…だけですよ?』
「はい。」
だって、こんなこと
言ったらきっと皆さん唖然とするよ。
国民的アイドルなんだしプライドが…
『あたし…嵐さんの一人一人の名前
昨日知ったんですよ…。』
そういうと二宮さんは
ふふっと笑い急に体を離した。
「よかった…」
『はい?』
「じゃあ、まだ位置的には
ゼロなんですよね?」
ゼロ…?
あ、みんなのことを知らないことで?
『はい。まぁ、そうなります。
本当にごめんなさい。
あたし、あんまり興味なくて…』
「興味ないって…
まぁ、いいですけど?」
あ、またあたし。
失礼なことを…
「じゃあ、お願いがあります。」
そう言って二宮さんは立ち上がり
あたしの頭に手を置いた。
「俺のことを一番に一番多く
知ってください。
それで一番好きになって、
好みは二宮和也て言ってくださいよ?
いや、そう言わせてみせますから。」
なぜか告白みたいな、
プロポーズみたいな。なんて思った。
『わかりました。』
「いい子です。
じゃあ帰りますね。そろそろ…
また明日、深夜に?」
そう言って二宮さんは
マネージャーさんに電話をしながら
帰っていった。
そんな風がまだ冷たい2月の夜だった。