第11章 【脹相】君の名
渋谷事変から3日後。
脹相は虎杖と共に都内に解き放たれた呪霊の討伐に明け暮れていた。
最初こそ警戒していた虎杖も脹相と一緒にいることにすっかり慣れてきていた。
脹相も虎杖と共に行動できることに満足していた。
ただ気になることが一点。
渋谷事変が収束した後、あまり時を空けずして気配を感じた。
もちろん、八百比丘尼と名乗る女のものだ。
目の前に現れることはないが、付かず離れずの一定の距離を保ちつつずっと近くにいるようだ。
それも3日目にして脹相の堪忍袋の緒が切れた。
「悠仁…少し出てきてもいいか?」
「別にいいけど」
「あと、ここに人を連れてきてもいいか?」
「えーと、いいけど、誰?」
「俺もよくわからない」
「なんだそれ」
「とりあえず、そいつとも向き合わなければならないなと思ってな」
「よくわかんねーけど、別に俺は構わないよ」
「そうか。ありがとう」
そして、拠点にしている部屋を出る。
気配はかなり近くにある。
そんなことはないとは思うが近づいて逃げられるのも厄介なので、初速で一気に距離を詰めた。
目の前には何日か前に出会った女。
いきなり現れた脹相に驚いたようで目が見開かれている。
「ここには来るなと言ったはずだ」
「…10月31日には近づきませんでした。あと、ここはこの前会った路地ではありません」
「……」
「…すみません。屁理屈を言いました。ただ…心配で…」
その言葉が嘘ではないことは気配からわかる。
渋谷の帳が解除されるまではわからなかったが、それ以降はずっと脹相を案じていることは感じていた。
きっと戦闘中のことなども女に伝わっていたのかもしれない。
150年間ずっと傍にあった気配。
自分を案ずる唯一の温もり。
今の脹相に虎杖という共にありたいと思う者がいるように、女にとっては自分がそれであるらしい。
それは今の脹相にとっては拒みがたい。
「ここで話をしていても埒が明かん。ついて来い」
そう言うと女に背を向けて歩き始める。
女も後ろを付いてきている。
聞きたいことは山程あるのに、実際顔を合わせると何を話せばいいかわからない。
今まで抱いたことがない感情に対処する術がない。
そうして、部屋に着くまで一言も話すことはなかった。