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【呪術廻戦】誰も知らない

第10章 最後の灯火


薨星宮を後にした八重は、全国に広まった『八百比丘尼の伝承』を閉じる旅をした。
それまでは『若さを保ったまま生き続けている比丘尼がいる』との伝承を、『その比丘尼は入定した』と流布したのだ。
加茂憲倫の目を少しでも反らしたい思惑もあったが、もう比丘尼として人を助けないという決別の意味もあった。
八重はもう比丘尼の格好をしていない。
髪を伸ばし、普通の服を着て、普通の人間に混ざって生活する。
幸い100年ほどの間は度々の戦争や災害で身元を明かさずとも生活することができた。

そんな生活を始めてすぐの頃だった。
自分の中に奇妙な感覚があることに気づいた。
それは自らの中に自分じゃない誰かの気配がする。
感情がある、といってもいいかもしれない。
初めは『寒い』とか『寂しい』といった感覚だった。
でも、それは八重自身の無意識な感情なのかと思っていた。
しかし、ある日、突然深い悲しみの感情の気配を感じた。

(違う…!これは、私の感情じゃ、ない…!)

流れ込む悲しみの温度に胸が苦しくなる。
周りを見てもそんなに悲しんでいる人はいない。
そして、ふと、これは九相図の誰かの感情なんじゃないか、と思った。
寿命を分け与えるときに自らの血を使っている。
どこかで繋がっていてもおかしくはない。
それにしても、これほどの強い悲しみ、いったい何が起こったのか。

(…九相図の誰かが、死んだ…?)

八重はヨロヨロと人目につかない所まで行くと手を合わせて心の中で経をあげた。
とっくに比丘尼はやめてはいたが、この悲しみに向かい合う術はこのくらいしか知らない。
今はただ、この悲しみが収まるまでこうやって寄り添うことしかできない。
どうか、この思いが彼らに届いてほしいと願いを込めて、ただただ祈ることしかできないのが苦しかった。
これと同じ感情の波はその後も時をずらして五度訪れた。

(もう6人も死んでしまった…あと、3人しか残ってない…)

その頃になると八重も自分の中のその気配に意識を向けて、はっきり認識できるようになっていた。
その中で、悲しみや寂しさ以外にも誰かを思いやったり、励ましたりする温かな感情を感じることもたくさんあった。
九相図の誰と繋がっているかはわからない。
もしかしたら1番の兄なのかもしれないな、とぼんやり思っていた。
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