第2章 本当の私
私が3歳になった頃、私は流行り病に罹った。
当時は子どもが罹ればほぼ助からないとされていた病だった。
父と母は毎日神社を詣り、神棚にも祈りを捧げてくれた。
しかし病は一向に良くならず、いよいよ峠に差し掛かった時に父は神棚にお供えしていた肉のことを思い出した。
(きっとワダツミ様が助けてくれる…)
そう思った父はその肉を私の口に入れた。
私は幼く、病で朦朧としていたが、その時のことは今でも忘れない。
口にした物は固く、弱った私には噛み切れなかった。
しかし、喉元に来た時には液体のように私の中へ滑り落ちていった。
味はしない。
微かに海の香りがした。
それまであんなに熱かったのに、〝それ〟が通ったところから熱が引いていった。
そして体の中は静まり返り、耳の奥では規則正しい波の音だけが響いていた。
私は三日三晩眠りについた。
起きた時には家の前には村人たちが大勢集まっていた。
そして口々に『ワダツミ様のおかげだ』『ワダツミ様の寵児だ』『ワダツミ様の姫様だ』と持て囃した。
父に続いて私までもが時の人となった。
それからの私は病に罹ることはなく、怪我をしても治りはとても早かった。
それ以外は特筆することもなく、すくすくと成長できた。