第6章 【脹相】手折る
不意に懐かしい気配を感じた。
産まれてから150年間、変わらずに寄り添う気配。
脹相は顔を上げた。
「申し訳ありません。次は3日後と言われたのに…来てしまいました」
そう言うと八百比丘尼は脹相の横に座った。
何も聞かない。
話さなくてももう分かっているのだろう。
何もしないでただ側にいる。
女がいるところだけ温かい。
150年間、ずっと。
彼女はずっと温かかった。
(この女となら、俺たちは……。いや、壊相も血塗ももういない。そんなたらればを考えるな。まずは弟たちの敵を取らねばならない)
脹相は立ち上がった。
女が気遣うように脹相を見上げる。
脹相は女の目を見れなかった。
「…夏油傑という男を知っているか?」
「…いいえ、存じません」
「その男はお前を知っているぞ。お前を手籠めにしようとしている。もうここには来るな」
女から返答はない。
「それと、10月31日は渋谷へは近づくな。詳細は話せない」
脹相は女に背を向ける。
もう会うこともないだろう。
会ってはいけない気がした。
「…死なないで」
僅かにそう聞こえた気がした。
しかし。聞こえないふりをした。