第27章 【脹相】へる日々
五条と脹相では身長差がある。
五条と同じことをやっても脹相は八重の頭上に顎を乗せることはできない。
今、脹相の顔は八重の耳元にある。
なので、話すのにも声のボリュームは自然と落ちた。
それがこそばゆいのか八重は少しだけ身動いだが、それでもそのままでいた。
「特に何も。力のことや私たちのことは何も話してません」
八重は脹相が八百比丘尼のことや九相図との関係のことを五条に話したのではないかと危惧していると思っているようだった。
しかし、脹相が聞きたいのはそんなことではない。
では何が聞きたいのか、脹相もわからない。
胸にモヤがかかっていく。
「違う」
思わず八重の耳元であることを忘れて語調が強くなってしまった。
それに驚いたのだろう。
八重がこちらに顔を向け、そしてまたすぐに前を見た。
特に何も言わない。
「他は?」
もっと具体的に訊ければ手っ取り早いのにそんな質問しかできない。
「…それ以外は現状どうなっているかなどでしょうか?あとは悠仁くんの学校生活のこととか…雑談です」
封印解除後の五条に今の現状を説明するのはまだわかる。
しかし、それ以外は雑談。
しかも脹相も知らない虎杖の話。
八重と五条が二人で楽しそうに笑い合いながら話をする、そんな場面が脳裏に浮かぶ。
また腹の底が沸々としだす。
口を開いてもろくなことが訊けないのでしばらく黙った。
それなのに作業している八重の手が急に止まった。
「っすみません。作業がしづらいので少し離れていただけますかっ?」
遂に拒絶された。
煮えてた腹はスッと治まった。
脹相は無言で身体を反転させて今度はシンクに寄りかかる。
離れて八重を見て初めて耳元が赤くなっていることに気づいた。
もしかしたら体調が悪くて離れてほしいと言ったのかもしれない。
「熱でもあるのか?」
そう訊けば八重は不思議そうに脹相を見た。
顔は赤くない。
「熱、ですか?ないと思います」
「耳が赤い」
「これは…ただ、末梢に血液が集まっているだけで」
耳の異変は本人も気づいているらしい。
脹相はそっと摘むように八重の耳に触れ、その後で首筋に触れた。
耳は少し熱いが首元に熱はない。
「そうみたいだな」
とりあえずは安心できた。