第2章 霞の少年と、隠された真実【番外編/無一郎夢】
お館様の屋敷。
柱合会議が終わった後の廊下で、あたしは背中に突き刺さるような鋭い視線を感じて立ち止まった。
振り返ると、そこには霞柱・時透無一郎がぼんやりと、けれど射抜くような瞳であたしを見ていた。
「……君、誰?」
お館様から紹介はされたはずだけど、彼にとってあたしはまだ「正体不明の不純物」でしかない。
向けられる視線には、明らかな警戒の色が混じっていた。
そんなある日の任務中だった。
あたしは偶然にも、鬼と対峙する無一郎の姿を見つける。
あたしは咄嗟に彼の後方支援に入り、共に戦うことを決めた。
「……邪魔しないで。一人でやれる」
冷たく言い放つ彼だったが、連携は悪くなかった。
けれど、その時は唐突に訪れる。
鬼の放った不意打ちが、無一郎の体を掠め、鮮血が舞った。
「……っ、無一郎!!」
彼が傷つくのを見た瞬間、あたしの中で何かが音を立てて崩れた。
視界が真っ赤に染まり、理性が吹き飛ぶ。
「よくも……、よくも彼を……!!」
あたしが刀を振るったのは、一瞬だった。
理屈じゃない、圧倒的な力で鬼の首を叩き斬る。
それこそが、あたしが隠し持っていた「本来の力」の一つだった。
数日後。
怪我から復帰した無一郎と、任務帰りの道端で偶然再会した。
夕闇の中、彼は立ち止まり、じっとあたしを見つめてくる。
「あの時は、ありがとう……。でも、君を見てると不思議な気持ちになるんだ」
彼の瞳に、いつもの虚ろさはなかった。
「君の纏う雰囲気は、僕と似ている。霞の向こう側にあるものが、同じ気がするんだ……」
無一郎は、自分の胸の奥に灯った見知らぬ熱に戸惑っていた。
それは、失った記憶のせいでも、戦いの高揚感のせいでもない。
「……他人だとは思えない。もっと、君を知りたいって思うのは、変かな?」
霞がかっていた彼の世界に、初めて鮮やかな色が差し込む。
それが「恋」という名の感情だと彼が気づくのは、そう遠い日のことではないだろう。
*