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『はつこい』

第9章 『 高鳴るふたつの音 』


咲は一瞬、何を言われたのか分からないように目を瞬かせたあと、みるみる顔を赤くしてうつむいた。

「……え、あの……」

言葉が続かない。

繋いだ手が、さっきより少しだけぎこちなくなる。

その反応を見て、凛人は思わず小さく笑った。

「なに、さっき自分で言ってただろ」

「そ、それは……っ」

咲はさらに顔を赤くして、空いている方の手で口元を隠す。

「先輩が、急にそんなこと言うから……」

「急じゃないけど」

少しだけ体を傾け、咲の表情をのぞき込む。

「ほんとのことだし」

その距離の近さに、咲が一瞬肩をすくめる。

(……ほんと分かりやすい)

可愛すぎて、また笑いそうになるのをこらえながら、繋いだ手を軽く引いた。

「ほら、次どこ行く?」

「……」

「このまま黙ってたら、俺ずっと見てるけど」

その一言で、咲が慌てて顔を上げる。

「だ、だめです!」

「なんで」

「……恥ずかしいので……」

小さな声でそう言う姿に、胸の奥がじんわり温かくなる。

「じゃあ、歩きながらにするか」

凛人は少しだけ握る力を強めた。

「でも、見てるのはやめないけど」

咲は「もう……」と小さく呟きながら、それでも手を離そうとはしなかった。
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