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『はつこい』

第1章 『わたしの初恋』


中学二年の冬。
双子の兄姉がバスケ見に来なって誘ってくれた。
体育館の空気は、息を吸うだけで肺の奥が冷たくなるほど澄んでいた。

バッシュが床を叩く音。
ゴールネットが揺れる音。
歓声と拍手が、少し遅れて響く。

——その中で。

一本のシュートが、胸に突き刺さった。

高く跳んで、迷いなく放たれたボールが、
綺麗な弧を描いてリングに吸い込まれる。
一瞬、音が消えた気がした。

「……」

隣に座っていたお姉ちゃんの袖を
無意識に引く。

「ねえ、今のシュートした人……だれ?」

桜はコートを見ながら、あっさり答えた。

「成瀬だよ。ほら、あそこ」
「……成瀬?」
「私と蓮と同い年。エース」

兄姉と同い年。
なのに、すごく遠い。

視線の先にいるその人から、どうしても目が離せなかった。

——成瀬 凛人、、、先輩。

その名前を心の中で繰り返した瞬間、胸が少し苦しくなった。

試合が終わっても、帰り道になっても、頭から離れない。
あのシュートも、横顔も、真剣な目も。

家に帰って、私は双子の前で宣言した。

「……私、決めた。この高校、受験する」
「お?」
「マジ?いいじゃん」

軽い返事に、少し救われる。

「じゃー今から猛勉強だな!」
「うん……!」

机に向かう夜が増えた。
ノートの端に、無意識に名前を書いてしまって、慌てて消す。

それでも、苦しくはなかった。
むしろ、その名前があるだけで頑張れた。

——また、会いたい。

合格発表の日。
自分の番号を見つけた瞬間、息が止まりそうになった。

蓮と桜に挟まれて笑いながら、でも心の奥では、ひとつだけ願っていた。

入学式。
体育館に入った瞬間、視線が勝手に動く。

……いた。

背の高い後ろ姿。
記憶と同じ、少しだけ大人びた横顔。

あんなに遠く感じたのに

胸が、うるさくなる。

迷うことなく、私はバスケ部のマネージャーを希望した。

理由なんて、言えるわけがない。

そして、初めてちゃんと向き合った日。

「 岩田双子の妹、 咲です!
よろしくお願いします!」

声が少しだけ震えた。

その瞬間、成瀬先輩の視線が、ほんの一瞬、私で止まった——気がした。

これが、私の初恋。
まだ、恋にすらなっていない、はじまりの話。
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