第7章 咎
霜刃は驚きに小枯の頭を抱き抱えた。
「こか…小枯…ッ。何だ…。どうした…」
顎の下で葛が潰れて青臭い。小枯は霜刃にされるがまま、だらりと力なく身体を揺らすばかり。
「…くる…し…」
ぎゅうぎゅうに頭を抱き抱えられた小枯が呻き声をあげた。
「小枯…」
腕を弛めて見下ろすと、目の下に黒い隈を浮かべた小枯の顔が目に入った。霜刃は歯を食いしばって小枯の頭をまた抱きかかえた。
「どうした?どうすればいい?」
口早に聞けば、小枯は霜刃の腕の中で頭をもぞと動かして、横を向いて息を吐いた。
「…水」
「水か…!今持って来る」
「…腹が…腹が減って…」
「…腹が減った?」
霜刃は呆気にとられて小枯を見下ろした。
小枯は顔の向きに逆らう気力もない様子で、横向きでまっすぐどこでもない場所を凝視して喘いだ。
「…だる…くるしい…」
物が食えるのか、これで?
霜刃は一時迷って、しかし小枯の体をそっと床に横たえると立ち上がった。
「ちょっと待ってろ」
行きかけて、ふとまた傍に屈み込む。
白衣の上に羽織っていた浅葱色の羽織を小枯の上に覆い被せた。
日に焼けた浅黒い小枯の顔が白い。伏せた目の上に葛の柾木の緑葉と白い花が垂れて、黄色な花弁が切れ長の目尻に添って不思議な彩になって、綺麗だ。
「……」
霜刃は力が抜けたように小枯の傍らに座り込んだ。
先刻舞台で舞っていた小枯の姿が浮かんだ。
時雨に巻かれながら、光の粒に巻かれながら、黒髪と葛を揺らしながらふわふわと未熟に舞っていたどうしようもなく美しい小枯。
今、目の前で、何故だか弱り切って目を伏せ、塩垂れてなお色鮮やかな柾木の葛に彩られて美しい小枯。
「…小枯」
霜刃はからからに乾いた口を開いて、小枯を呼んだ。
「小枯…水が欲しくば、俺の話を聞け…」
何を言っているのか、自分でもわからなかった。
わからなかったが、やめられなかった。
「食い物が欲しいか、小枯…」
「……」
弱り切った顔で、小枯が霜刃を見た。いつも真黒い瞳が心なし灰がかって見える。力ない瞳が、それでも霜刃を捉えて力なく肯定の色を受かべる。
霜刃は小さな拳を膝の上で握り締め、一息吸い込んで小枯の上に身を屈めた。
「…なら、お前の名前を俺に教えてくれ」
「……」
小枯の目が一度、瞬き、それきり閉じた。