第7章 咎
小枯が時雨で雨乞いの舞を奉じた日照りのあの年。
初めて削れて呆然と朦朧になった小枯の側にいたのは霜刃だった。
小枯が舞ったのは乾いた風の吹く気持ちのいい日だった。
皐月の気候がまんま続いた梅雨も終わりの時候、舞の後、夕刻からそめそめと雨が降り出し、雨乞いは滞り無く納めれられたと小枯の時雨は里で評判を呼んだ。
削れて呆然とした幼い小枯を置き去りに。
舞い終わった小枯はすたすたと控えの翼殿まで歩いて退がった。何事もなかったように、けれど白いような青い顔で舞台を下りた小枯が気になって、霜刃は翼殿で小枯を待ち構えていた。
小枯の隣には同じく、今日という日に豊年の舞を舞った巫女がいた。小枯と霜刃と同じ歳か、少し上の童女だったように思う。
小枯が南天と呼んでいたので、多分南天だ。
後年参の牟礼の本巫女になる南天が小枯と手を繋いで翼殿に入って来た。
「…ここで何してるの?」
霜刃を見た南天が目を丸くして霜刃を見る。霜刃は舌打ちしそうになって止めた。
そんな歳から舌打ちなど覚えてどうするのですという非難がましい継母の言葉が頭を過る。その言葉に負けたくなかった。どうするのです?どうすると聞いてどうするんだ。
答えは自分で出す。舌打ちを覚えても出しどころを弁えてやる。
小枯は前を見たままぼんやりしていた。
頭に戴いたままの葛がしんなりと塩垂れている。小枯の中身を現わしているように思えた。
「去ね。後は俺がみる」
「みるって何をみるの。私たち、着替えていかないと」
南天が戸惑った顔で霜刃と小枯を見比べた。
「お前は西の翼殿に行け。着替えは届けさせる」
たった十の、霜刃の異様に静かな顔を見て南天が目を瞬かせて小枯の手を放した。
「去ね」
「……」
南天は黙って一歩下がって、駆け去った。
怖がっているようにも傷付いているようにも思えたが、どうでも良かった。目の前でこういうやり取りが交わされているのに何一つ反応しない小枯の方が気になった。
いつもなら仲裁に入る筈。だが小枯は前を向いたまま、突っ立って動かない。
近づいておずおずと葛に触れると、崩れるように倒れ込んだ。
抱き留めようと伸ばした腕をすり抜けて、小枯がごんと頭から床に伸びる。
「こ…小枯…ッ」
慌てて傍らに座り込んで倒れ込んだ身体を還すと、小枯は薄目を開いて口の端から涎を垂らしていた。
