白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第32章 ● 運命の夜 ○
「アイスがあるぞ?」
緒方が言うと星歌の瞳が輝く。星歌はニコニコとスプーンを口に運ぶが、カップが空になると、リビングは再び静けさに包まれた。
緒方は星歌の頭をそっと撫でて言う。
「いい子は歯磨きして寝る時間だな」
頷く星歌の肩が、小さく震えているのが分かった。
歯磨きが終わって、照明とエアコンを消す。静まり返ったリビングを、水槽の青い光が照らしている。緒方は星歌の背中に手を添えて、寝室へと促した。
「星歌が嫌がることは絶対にしないから、安心しろ」
星歌は小さく頷いた。
寝室に入ると、ムスクがほのかに香る。間接照明の光が揺らめいている。
セミダブルのベッドで1つだけの枕を分けあうと、肩が触れ、腕が重なり、息がすぐ隣に感じられる。
緒方は天井をジッと見つめる。…今夜は何もしない。ただ、そばにいるだけでいい…と、決意した。星歌の体温が布団の中で伝わってくる。甘いシャンプーの香りがすぐ鼻先にある。それでも、耐えなければいけない。
星歌が震える声で呟いた。
「…精次さん」
「ん?」
「…キス…して…」
緒方の鼓動は早まる。緊張を悟られまいと、そっと星歌を抱きしめて、髪に唇を落とした。次はひたいに、頬に、そして、最後に唇に。触れるだけの優しいキス。「おやすみ」と言おうとした瞬間、再び震える声が聞こえた。
「…大人の…キス…して…」
緒方の息が止まった。これ以上は…理性がギリギリだ…。そう思いながら再び唇を重ねた。今度は、先ほどより深く。舌先がそっと絡まり、吐息が混じり合う。星歌が小さく震えながら、緒方の背中に腕を回す。キスは長く、熱く、そして、優しかった。
唇を離した瞬間、緒方の息は乱れていた。ひたいを星歌と着けたまま、本音を零す。
「…嫌がることは絶対にしないって決めている。でも、こんなふうにキスすると…。正直、星歌を…欲しいと思ってしまう…」
数秒の沈黙のあと、星歌が言った。
「…私…精次さんなら…平気だよ」
その言葉が合図かのよう、抱きしめる力を強めて再び口づける。
「星歌、愛してる…」
何度も名前を呼び、愛を伝え合う、長い夜の始まりだった。