白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第29章 ○ 卒業間近のトラブル ●
卒業式前の最後となる週末。久々に、星歌が緒方の家を訪れている。
緒方が紅茶を淹れる間に、星歌はコートを脱いでソファに座る。少し俯いて、呟くように言う。
「…やっぱり、パパとママ、卒業式には間に合わないって」
緒方は隣にそっと腰を下ろした。
「…そうか、残念だな…」
星歌は膝の上で指を絡めながら、小さく笑う。
「でも、3月中には来られるから。大学のこととか、いろいろ話したいって」
目を輝かせて、大学のキャンパスやサークルのイメージを楽しそうに語っている。緒方はその横顔を見ながら、胸の奥が締めつけられるのを感じつつ問う。
「…寮は、もう決まったのか?」
「まだ。寮に入れなくても、せっかくだから近くで探してみようかってパパは言ってる」
大学の近くでオレと一緒に暮らせばいいじゃないか…。ここで過ごす週末みたいに2人で買い物へ行って料理をして、一緒に映画を見たりお茶を飲んだり、それでいいだろ…?緒方はそう言おうとしたが、星歌の笑顔があまりにも眩しくて、言葉を飲み込んだ。
星歌はふと気づいたように、緒方の顔を見る。
「精次さん、どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
そう答えて、そっと星歌の手を握る。星歌は驚いたように瞬きをするが、すぐに握り返す。
「パパが、精次さんに会いたいって」
「ああ。オレも会って話したい」
「卒業式のあと、お祝いしてくれるの?」
「もちろん」
「大きな花束?」
「ああ」
星歌はクスクスと笑う。そして、小さな声で言う。
「…いつか卒業する日が来るって分かっていたけど…。いざ来てみると、早かったような遅かったような…」
2人はただ、静かに寄り添っている。卒業まで、あと少し。その「少し」が、とても愛おしい。卒業したら、星歌が遠くへ行ってしまうような気がする。星歌と…離れたくない…。緒方は、星歌の手のぬくもりを、胸の奥に刻み込むようにそっと目を閉じた。