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白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】

第28章 ● 一歩踏み出すバレンタインデー ○


 残りの紅茶を飲み干してマグカップが空になると、星歌はそっと立ち上がる。
「…そろそろ、帰るね」
「送る」
 緒方は短く言った。

 外は冷たい北風が吹くが、星歌の編んだマフラーが守ってくれているようだった。寒さを感じなかったのは、星歌と歩けるという喜びのおかげであったのかもしれない。
 並んで少し歩いたところで、星歌の指がそっと緒方の手に触れた。そして、指を絡めてギュッと握ってくる。小さな勇気を振り絞るようなその動きに驚いて隣を見ると、星歌は恥ずかしそうに俯いていた。胸の奥が熱くなり、その手をそっと握り返す。
 指と指が絡まる感触。直に感じられる星歌の体温。緒方の胸の奥があたたかくなっていく。会話はなく無言で歩き続けているが、きっとオレたちは大丈夫だと、少しずつ勇気が湧いてくる。
 
 やがて、星歌のマンションに着く。
「送ってくれて、ありがとう」
 小さく言って手を離す星歌の指先を、緒方は思わず掴んだ。星歌は一瞬ピクッと震え、少し戸惑ったような表情を見せる。
「…抱きしめても、いいか?」
 緒方の問いに星歌は、少し考えてから頷いた。
「…うん…抱きしめて、ほしい…」
 緒方はゆっくりと腕を伸ばして、星歌をそっと胸に抱いた。身を委ねていた星歌は、数秒後に両手を緒方の背中に回す。その仕草に胸がいっぱいになる。星歌に許されたような気がした。
「…星歌」
 愛しい人の名を耳元で呼ぶ。
「…オレ、キミのこと大切にするから…」
「…うん…」
 星歌が小さく頷く。

 どれくらいそうしていたか分からないが、そっと身から離した星歌の目は潤んでいた。頬は薔薇色で、とても幸せそうな表情だと緒方は思う。二度と星歌を傷つけない。星歌を絶対に幸せにするとの決意を新たにした。
「おやすみ」
星歌は小さく手を振って、オートロックの向こうへ消えていった。
 緒方は、首に巻いたマフラーをそっと撫でて、空を見上げる。大丈夫だ、戻れる。前よりもっと大切にできる。その確信を胸に、ゆっくりと家路についた。
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