白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第28章 ● 一歩踏み出すバレンタインデー ○
星歌の家では、バレンタインデーに向けてのガトーショコラ作りの真っ最中だ。明日美がエプロン姿でニヤニヤしながら材料を混ぜ合わせている。
「今年はもう完全にラブラブじゃんね、棋院の公認カップルだもん。緒方先生、星歌のチョコ、絶対楽しみにしてるよね!」
「…うーん、どうだろう…?…今、ちょっと微妙かも…」
「え…?喧嘩でもしたの?」
「喧嘩というか…。少しギクシャクしてる感じっていうか…」
ゆみちゃんには言えたけれど、明日美は精次さんのことよく知ってるから、話すのは少し気まずい…と、詳細は濁す。明日美もそれを察したのか問い詰めるようなことはせず、真剣な顔で大きく頷いてから言う。
「だったら、バレンタインをきっかけにすればいいじゃない?」
「そう、だよね…。ありがとう、明日美」
「『精次さん、これ、ガトーショコラ』『ありがとう、チョコなんかよりもキミが好きだ』みたいな、ね?」
明日美が星歌と緒方の口調を真似て言い、星歌の気持ちも明るくなる。
「あんまり似てないけど、ありがとう」
「えー、そっくりだと思うよ?」
部屋に明るい笑い声が響く。
明日美が帰ってから、星歌はスマホとにらめっこ。メッセージを打っては消し打っては消しを、何度も繰り返している。試行錯誤の上に入力してから、やっと送信する。
「明日、バレンタインのチョコ、家に届けに行ってもいいかな?」
送信してから、胸がドキドキしすぎて大きく深呼吸をする。既読がつくまでの数秒が、やけに長く感じられた。
「ありがとう。待ってる」
緒方からの返信を見て、涙が出そうになるほどの喜びが湧き上がった。明日、やっと踏み出せるかもしれない。私たち、元通りになれるよね…?
ガトーショコラの甘い香りが、幸せな未来を予感させるよう部屋中に広がっていた。