第6章 新しい日常
期末試験を終え、夏の林間合宿を目前に控えたある休日。
爆豪の身体には、日々の猛特訓で刻まれた細かな擦り傷や打ち身が絶えなかったが、その表情にはかつてないほどの充実感が漲っていた。
「……ほら、行くぞ。……ボサッとしてんじゃねぇ」
爆豪がぶっきらぼうに促したのは、海が大好きなNAME1#のために予約した水族館だった。
巨大なトンネル水槽。
頭上を優雅に泳ぐエイや、光を浴びて銀色に輝く魚の群れを見上げて、の瞳はキラキラと輝いていた。
「……すごい、勝己くん見て! 海の中にいるみたい……綺麗…」
「……あァ、そうだな。……まぁ、悪くねぇんじゃねぇか」
爆豪は周囲の魚には目もくれず、ただ隣ではしゃぐ彼女の横顔をじっと見つめていた。
「ねぇ勝己くん、あっちのクラゲも見てみたい! 一緒に行こ?」
「おい、走んなっつーの……ッ。転んでも知らねぇぞ」
口では毒づきながらも、爆豪の手は自然と彼女の細い指を包み込んでいた。
「……勝己くん、最近ずっと訓練で大変だったでしょ? 怪我、また増えてる……」
ふと立ち止まった彼女が、爆豪の腕に残る新しい痣にそっと触れた。
「……っ、こんなもん、ヒーローになるための勲章だ。痛くも痒くもねぇよ」
「……頑張ってる勝己くん、かっこいいよ。でも、あんまり無理しないでね? 私、勝己くんが笑っててくれるのが一番嬉しいから」
爆豪は言葉に詰まり、バツが悪そうに顔を背けた。
(……ったく、誰のせいでここまで必死こいてると思ってやがんだ)
彼女を守り抜くために、自分はもっと強くならなければならない。
ヴィランの手が届かない、圧倒的な高みへ。
その決意を新たにする爆豪の視線の先で、が再び水槽に顔を近づけて「わあ!」と声を上げた。
「……勝己くん、本当にありがとう。今日、すっごく楽しい!」
振り向いた彼女の満開の笑顔。
それは、爆豪が一ヶ月間の地獄から、そして自分自身の過去の過ちから、ようやく彼女を救い出すことができたのだと確信させてくれる、何よりの報酬だった。
「……合宿終わったら、次は本物の海に連れてってやるよ。だから、……それまで待ってろ」
「……うん! 約束だよ、勝己くん!」
蒼い水族館の光の中で二人は指を絡め合い、静かな、けれど確かな未来を誓い合った。