第5章 『極上ミルク』の正体
事務所に戻るなり、爆豪はデスクで書類を精査していたジーニストを真っ向から睨みつけた。
その瞳には、実習の疲れなど微塵も感じさせない猛々しい意志が宿っていた。
「……あいつは今日、俺が連れ帰る」
「……爆豪。昨夜の君の振る舞いについては、今は不問に付そう。だが、保護されたばかりの被害者を私物化するのは、ヒーローとして、いや、大人として認められることではないぞ」
ジーニストは眼鏡を指で押し上げ、冷静に、かつ鋭く爆豪を制した。
爆豪は鼻で笑って言い返す。
「私物化だァ? 抜かすな。あいつの両親は海外の僻地で連絡もつかねぇ。一人暮らしのボロアパートに戻して、またあのクソ野郎共に狙われたら、テメェ責任取れんのかよ」
「……それは」
「あいつの身体は、……まだ、普通じゃねぇんだ。俺が側にいねぇと、あいつはまた壊れる。……あいつ自身の意思も、確認してきた。俺の家に来るってよ」
ジーニストは深く、長く溜息を吐いた。
爆豪の言うことにも一理ある。
の両親との連絡が遮断されている現状、彼女を一人にさせるのはあまりにリスクが高すぎた。
「……彼女に、再度確認を取った。君の言う通り、彼女は君の側にいたいと懇願しているよ。……仕方ない、君の両親の承諾があるなら、一時的な保護下としての滞在を許可しよう」
「……当たり前だ」
爆豪はその足ですぐに実家の光己に連絡を入れた。
『幼馴染が酷ぇ目に遭って、保護者もいねぇ。落ち着くまでうちで面倒見るぞ。文句あんのかババア!』
電話越しに爆豪以上の怒号を飛ばしながらも、光己は「あんたが守り抜きなさいよ、このバカ息子!」と、彼女を迎え入れる準備を即座に整えた。
夕刻、実習の全行程を叩き潰すようなスピードで終えた爆豪は、病院のロビーで待つの元へと駆け寄った。
「……勝己くん!」
爆豪の姿を見つけた瞬間、彼女の瞳にパッと光が宿る。
「待たせたな。……行くぞ、俺の家だ。もう、あんなクソみてぇな場所には二度と戻さねぇ」
「……うん。勝己くん、ありがとうっ…」
爆豪は何も言わず彼女の指を強く、痛いほどに絡め取った。
「……。お前は、俺の隣で…笑ってりゃいいんだ」
夕焼けに染まる道を、二人は並んで歩き出す。
彼女を必ず守ると、爆豪は繋いだ手の感触に誓っていた。