第9章 聖者の独占、その熱に溺れて【炭治郎夢】
「……ねぇ。ねぇねぇねぇ、炭治郎」
善逸が、耳をぴくぴくと動かしながら、ものすごく疑わしい目でこちらを見ている。
「お前さ、今朝から音がおかしいんだよ。何なのその、春の訪れみたいな多幸感あふれる音は! 聴いてるこっちが恥ずかしくなるだろ!!」
「そうか? いつも通りだよ、善逸」
炭治郎はニコニコしながら、あたしの小皿に焼き魚の身を丁寧にほぐして乗せている。
「ほら、。ここの身が一番美味しいから」
「……あ、ありがとう(視線が痛い……!)」
「おい、紋次郎!!」
伊之助が鼻息荒く身を乗り出した。
「お前ら、なんか変な匂いがするぞ! 混ざり合ってて、なんか……こう、ぬるい匂いだ!!」
「伊之助、それは『愛』っていう匂いかもしれないな」 「愛!? 弱そうだな! 叩っ斬ってやる!!」
「ぎゃああああ! 認めた! 今、炭治郎がサラッと認めやがったぁぁ!!」
善逸が頭を抱えて絶叫する。
「ちょっと待てよ! なんでお前らそんなに密着してんの!? 磁石なの!? 砂鉄なの!? ちゃん、そんな爽やか炭焼き野郎に騙されちゃダメだ、こいつの鼻は変態の域に達してるんだからー!!」
「善逸、静かに。がびっくりしてしまうだろう?」 炭治郎は一切動じることなく、あたしの肩を引き寄せ、耳元で
「……おかわり、食べる?」と甘く囁いた。
「いやあああ! その声! その顔!! 本物だ! 本物の独占欲だあぁぁ!!」
善逸の悲鳴が蝶屋敷に響き渡る中、
あたしは炭治郎の「聖人スマイル」の裏に隠された、底なしの愛の深さに改めて震えるのであった。
【完】