第8章 囚われの姫と、深淵の月【無惨夢】
現代からこの「鬼滅」の世界へトリップしたあの日から、あたし―― は必死に生きてきた。
お館様や柱たちと信頼を築き、ようやく自分の居場所を見つけたと思っていた。
けれど、運命は残酷にそれを奪い去る。
任務の帰り、凍てつく深夜の森。
背後から漂う、肺を焼くような濃厚な「血の匂い」。
振り返った先にいたのは、原作の知識でしか知らなかった最凶の王、鬼舞辻無惨だった。
「……面白いな。貴様、この世界の人間ではないな?」
漫画で読んだ知識、先の展開を知っているがゆえの「心の揺らぎ」。それを見透かしたように、無惨は一瞬で間を詰め、あたしの意識を闇へ突き落とした。
そして…
目を覚ましたのは、重力を無視して部屋が入り乱れる異空間、無限城。
「殺しはしない。その異質の知識、そして俺を恐れながらも惹かれているその瞳……気に入った」
逃げ場のない城で、彼はあたしを「特別な玩具」として扱った。
抵抗できない体へ、毎夜、狂おしいほどの愛撫が刻まれる。
心まで堕ちてはいけないと自分に言い聞かせても、彼の絶対的な強さと、時折見せる男としての美しさに、心身は少しずつ毒されていく。
一度、死ぬ物狂いで城の出口へ走ったことがある。
だが、扉に手をかけた瞬間、背後から冷たい気配が包み込んだ。
「……これ以上、俺を失望させるな」
捕らえられた腕は痛いほどなのに、なぜか安堵してしまった自分がいた。
心底絶望するあたしに、無惨は意外にも低い声で囁いた。
「それほどまでに震えるか。
……ならば、貴様が己から俺を求め跪くまで、無理に肌を重ねることは控えよう」
それからの日々は、嵐の前の静けさのように穏やかだった。
彼は言葉通り無理強いをせず、ただ傍にいることを許した。
支配者としての顔ではなく、ただ一人の男として、あたしを特別視するアプローチ。
その不器用な執着に、いつしか恐怖は、歪な愛情へと形を変えていく。
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