第6章 口溶けショコラ 【呪術廻戦 七海建人vs五条悟】
二月十四日、夕刻。
七海は宣言通り、きっちりと定時に仕事を切り上げた。
もちろん、の業務が滞りなく終わるよう、数日前から完璧な根回しを済ませていた。
二人が到着したのは、都内でも指折りの高級ホテルだった。
エレベーターを降りた瞬間、重厚な絨毯と洗練された香りに、は思わず足がすくんだ。
「……あの、七海さん。一応、私なりに綺麗めなワンピースを選んできたつもりだったんですが……ここ、ドレスコードありますよね?」
「ええ。ですが、心配には及びません」
七海は迷いのない足取りで、ホテル内にある併設の美容室へと彼女を促した。
「えっ、美容室? 七海さん?」
「事前に手配しておきました。こちらで着替えとヘアメイクを。衣装も私の選んだものを用意させてあります」
「……えええっ!?」
驚愕するをよそに、七海は受付のスタッフに短く会釈をした。
かつて五条にも、同じように強引に高級店へ連れて行かれ、着せ替え人形のように扱われたことはあった。
だが、あの生真面目な七海が、これほど用意周到に「自分を着飾らせる」準備をしているとは夢にも思わなかったのだ。
「あの、七海さん、流石に申し訳ないです! 私、こんな……」
「さん。今日は仕事ではありません。……私に、エスコートさせてください」
落ち着いた、けれど拒絶を許さない低音に射抜かれ、はタジタジになりながら奥の個室へと連行されていった。
一時間後。
ヘアメイクを終え、用意されていた深いネイビーのドレスに身を包んだが、おずおずとサロンの外へ出た。
「お待たせしました……七海さん……」
そこに立っていたのは、いつものベージュのスーツを脱ぎ捨て、身体に吸い付くような漆黒のフォーマルスーツを纏った七海だった。
さらに驚くべきことに、彼はトレードマークの眼鏡を外していた。
「……あ」
は言葉を失い、顔が一気に熱くなるのを感じた。
久々に見た眼鏡のない七海の素顔は、驚くほど整っており、切れ長の瞳がいつも以上に鋭く、そして優しくこちらを見つめていた。
普段の彼とは違う、大人の男の香気に、心臓が跳ねた。